肩こりがひどくなると、多くの方は姿勢や運動不足、目の疲れ、ストレスなどを思い浮かべます。
しかし、体内の「水」と「ミネラル」の状態が筋肉や血流、神経伝達に深く関わっていることは意外と知られていません。
私たちの体はおよそ60%が水分で、その水分が十分に保たれ、適切なミネラルバランスが整っていることではじめて、筋肉はしなやかに伸び縮みし、血液はスムーズに循環し、老廃物や疲労物質が滞りなく運ばれていきます。
ところが脱水やミネラル不足に陥ると、血液が粘性を増して流れが悪くなり、肩や首まわりの筋線維は酸素と栄養をもらいにくくなります。結果として筋肉は酸欠と栄養不足のダブルパンチを受け、硬く縮みやすい状態に固定されてしまうのです。
さらに筋肉を包む筋膜は、わずかな水分低下でも滑走性が落ち、隣り合う組織との間で摩擦抵抗が増します。例えるなら、よく潤ったフィルム同士はスーッと滑りますが、乾いたフィルムはピタッと張り付いて動きにくくなるイメージです。
この筋膜の“張り付き”こそが肩こり特有の重だるさや動かしづらさを増幅させる隠れた原因の一つで、水分補給は筋肉だけでなく筋膜のコンディション維持にも重要だといえます。
ミネラルの面では、カルシウムとマグネシウム、カリウム、ナトリウムのバランスが鍵を握ります。筋肉を縮めるときにはカルシウムが使われ、反対にゆるめる際にはマグネシウムが欠かせません。
両者のバランスが崩れると「縮めっぱなし・ゆるめられない」という状況が起こり、肩こりやこむら返りを誘発します。
またカリウムとナトリウムは細胞内外の水分移動や神経伝達に不可欠で、不足すると電解質バランスが乱れて疲労感やしびれ、むくみを招き、結果として筋緊張が増す傾向があります。
特に夏場やサウナ、ランニングなどで大量に汗をかく方は要注意です。汗には水分だけでなくナトリウムやカリウム、微量ながらマグネシウムも流出します。
水だけを大量に飲むと一時的に血液が薄まり、体は危険を察知して水分を早く排出しようとします。その際にミネラルの再吸収が追いつかず、かえってバランスが崩れてしまいがちです。肩こりを予防したいなら、汗をかく前後で「質の良い水+ミネラル」を意識的に補うことが大切です。
では具体的に何をどう摂ればよいのでしょうか。基本は常温またはぬるめの水をこまめに飲むこと。コップ一杯(約200ml)を一日8~10回に分けて摂ると、急激に胃腸を冷やさず吸収率も高まります。そこへほんのひとつまみの天然塩や黒糖を溶かすだけで、ナトリウムとミネラルの補給が同時に叶います。
加えて、味噌汁や具だくさんのスープはカリウムやマグネシウムも取り込める日本人に馴染み深い“飲む点滴”です。市販のスポーツドリンクは手軽ですが糖分が多めなので、汗を大量にかいた直後のリカバリー用に限定し、日常的には薄めて飲むか無糖のミネラルウォーターがベターです。
食事では、海藻や小魚、煮干し、アーモンド、くるみ、バナナ、アボカド、ほうれん草、納豆などを積極的に。特にマグネシウムは加工食品では失われがちなので、できるだけ未精製の玄米や雑穀を混ぜると摂取量が底上げされます。バランスよくミネラルを摂ることで、神経と筋肉のスムーズな連携が戻り、肩こりの慢性化を防ぐ土台が整います。
当院で施術中に触れると、水分不足の方は筋肉だけでなく皮膚も硬く粘り、反応に時間がかかるケースが多く見受けられます。施術後に「肩が軽くなっても翌日には戻りやすい」という方ほど、日常の水分・ミネラル補給が足りていないことが少なくありません。
逆に施術と並行してこまめな水分補給と食事の見直しを行った方は、同じ回数の施術でも改善スピードが速く、良い状態が長続きする傾向がはっきり出ます。
もちろん水やミネラルだけで肩こりがすべて解決するわけではありませんが、「水分不足は筋肉と fascia を乾かし、ミネラル不足は緩むスイッチを壊す」という大切な視点を持っておくことは、毎日のセルフケアを確実に底上げしてくれます。デスクワークの合間、ついコーヒーやお茶だけで済ませがちな方は、同量以上の水を追加するだけでも体は反応します。
まずは一日を通じて透明な水がどれくらい口に入っているか、そして海藻やナッツ、味噌汁など天然のミネラル食材がどれくらい登場しているかを振り返ってみてください。
肩や首の重さは、姿勢やストレス同様に「体内環境の異常を知らせるサイン」です。喉の渇きを感じてからではすでに遅く、肩こりとなって表面化している頃には、体の奥で水とミネラルの不足が進行しています。
今日のうちにデスクの横に常温の水ボトルを置き、食卓に海藻と小魚を添える習慣を始めてみましょう。筋肉と筋膜が内側から潤い、血液が軽やかに巡り始めれば、肩は必ず柔らかさを取り戻します。
「こりはもまずに、まず潤す」。そんな視点を日々のケアに加えるだけで、これまで手強かった肩こりが意外なほど静かにほどけていくはずです。
※個人の感想であり、成果や成功を保証するものではありません。





